花火師コラム

花火のジレンマ 加藤克典

2013年02月14日花火師コラム

基本的な花火の構造 断面図拡大

基本的な花火の構造 断面図

工夫した花火の構造(星が多くなった分、割薬が減っている)拡大

工夫した花火の構造(星が多くなった分、割薬が減っている)

ハートの絵が出る型物花火の構造 断面図拡大

ハートの絵が出る型物花火の構造 断面図

「花火のジレンマ」をご存知でしょうか?

恐らくご存知ないことと思います。
私が先ほど思いついた言葉で、まだ誰にも言っていません。

さて。
花火には法律や伝統、技術的な面から、大まかな規格が設けられており、この規格があることで製造上の様々なジレンマを抱えています。

例えば、花火は球形をしており、この中に如何にして火薬を詰めるか、という問題があります。
花火玉の中身は大きく分けて、割薬という花火を爆発させて開かせる火薬と、星という光る火薬が入っています。花火の打上げと同時に花火玉の導火線に着火し、上空で花火玉の中心部の割薬に火が着き、爆発して開くと同時に、花火玉の中の星に火が着いて飛ばされ、皆さんの目に花火として映る、という仕組みになっています。

星は様々な色に光って花火として姿を現してくれますが、星は光ることにエネルギーを使うので、花火玉を開かせたり、星を飛ばしたりする十分な力がありません。
逆に、割薬は花火玉を開かせて星を飛ばすためにエネルギーを使ってしまうので、殆ど光らず、星のように美しい色を出すことができません。

この二種類の火薬をどのように配分するか、ということが問題となります。

たくさん光るきれいな花火にしようとして星の割合を増やすと、割薬を入れるスペースがなくなり、花火がうまく開いてくれなくなります。
逆に、勢いよく安定して花火を開かせようとすると、星を入れるスペースがなくなり、寂しい印象の花火になってしまいます。

また、敢えて星を少なくしたハート等の絵の出る「型物」と呼ばれる花火の場合、割薬が多く入りすぎて爆発の威力が強くなりすぎてしまい、星に火が着かない、ということが起こったりもします。ただ、この「火が着かない」というのはまた別の問題ですので、いずれまたお話をします。

「最近は昔と違って色々な形の花火が出るなぁ…」
と思われたことはないでしょうか。従来のように単純な球形に開く花火であれば、正直なところ、割薬と星のバランスのジレンマにそれほど悩まれることはありませんでしたが、複雑な形の花火を考えるほど、両者のトレードオフの関係に悩まされることが多くなります。

さらにここへ「玉貼りのクラフト紙の層の枚数」の問題も大きく関係してきます。
花火は火薬を詰めた型紙の上から、糊を付けたクラフト紙を何重にも重ね合せて完成させます。この「玉貼り」という作業で、花火の外殻に強度を持たせ、花火の開き方を調整します。
外殻が強い(=外殻が厚い)ほど花火が開く力が強くなり、弱い(=外殻が薄い)ほど花火が開く力が弱くなります。

これは、花火玉の中心部で爆発しようとする割薬の力をどこまで溜め込むことができるか、ということです。
割薬に火が着いて、花火玉の中の割薬全体がガスになって、大きな圧力を持たせてから花火玉を爆発させれば、花火が開く力が強くなります。そのためには、外殻に相応の強度(=厚さ)が必要となります。
逆に、外殻に十分な強度がなければ、花火玉の中の割薬がガスになりきる前に花火が開いてしまうので、花火が開く力は弱くなります。もちろん、敢えてこのようにする場合も多くあります。

この「玉貼りのクラフト紙の層の枚数」で大きな壁となるのが花火の規格です。花火を打上げる筒のサイズが決まっているため、外殻を強くするためにクラフト紙を貼り重ねる枚数にも限界があります。それを超えて強度を出すためには、今度は火薬を詰めるスペースを小さくしなければなりません。しかし、それでは中に詰められる火薬が減ってしまいます。しかししかし、ある程度の強度を出さないと花火の形が崩れてしまう…。

さらに、割薬の強さも調整できるなんて聞いたら、もう読み進めたくなくなってしまいそうですので、割薬の強さの話は割愛します。

ちなみに、花火師はある程度経験を積めば、イメージ通りに花火が開かない場合に、割薬の強度の問題なのか花火玉の外殻の強度の問題なのか、開く花火を見ればわかるようになります。

もう少しですから、お付き合い下さい。
私もがんばって文章を短くします。
と言いつつ、まだ半分です…。

さてさて。
ここまでは花火玉のつくり方のジレンマでした。
ここからは、花火玉に詰める材料である、火薬のジレンマです。

花火には玉の詰め方と双璧をなす、もうひとつ大きなジレンマがあります。
それは、「星の光の強さ」です。

これまで皆さんがご覧になってきた花火の中に、印象に残る花火はありましたか?
もしあるとすれば、どのような花火だったか思い出せますか?

私は、それは光が強い花火ではないかと思っています。
これはあくまで私の個人的な意見ですので、反論、異論、様々あると思いますが、今回はジレンマのお話ですから、光が強いのが良い花火として先へ進みたいと思います。

花火は星で決まると言っても過言ではありません。色、明るさ、燃焼速度、色々な要素がありますが、ひとつ間違いのないことは、「皆さんに花火としてご覧頂くものは、星のみである」ということです。

ではこの「星」、どのようなトレードオフの関係を持っているのでしょうか。

それは、「光の強さ」と「燃焼速度」です。
光を強くして見る人により強烈な印象を与えようとすると、その分だけ燃焼速度が速くなります。あまり強くし過ぎると、すぐに燃え尽きてしまいます。飛んでいる星がすぐに燃え尽きてしまうわけですから、花火自体が小さくなってしまいます。
逆に、燃焼速度を下げようとすると、光が弱くなります。長時間燃えるので花火が大きくなり、文章を読んでいるだけであればお得な感じがしますが、あまり星を弱くすると、暗く、歯切れの悪く、どこかだらしのない花火になってしまいます。

このトレードオフの関係が非常に難しく、過酷なジレンマとして花火師たちを悩ませます。

逆に言えば、技術の見せ所でもあります。
明るい星を、どれだけ長く燃焼させるか。自分の表現したい花火を考え、星をつくる原材料の配合比率を変えるのか、星の大きさを変えるのか。
ちなみに、星を大きくすれば燃焼時間は伸びますが、花火玉に入る数は減ってしまいます。

いかがでしょうか。
星と割薬、貼り、星の光の強さ…。
花火には法律や伝統、技術上の観点から、大まかな規格が設定されており、その中で考えなければならない部分があるので、様々なトレードオフが発生します。

この規格を受け入れ、この中だけで様々な花火があることをもの凄いことのように思います。中には、プロの私たちが見てもどうやって詰めているのかわからない花火まで存在します。

自分の目指す花火に合ったバランスはどこが最良なのか。花火師である限り、永遠に悩み続ける「花火のジレンマ」です。

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