花火師コラム

海外の花火演出のポイントは一斉打ちではないかと密かに思う。加藤克典

2015年02月10日花火師コラム

こんばんは。
加藤克典です。

日本の花火職人で、製造から演出まで海外の花火事情に非常によく精通されている方から、このような言葉を聞いたことがあります。

「海外の演出家は○○のような玉を芸術的に打上げる」
(○○は想像してください。)

それが○○のようかどうかはともかく、芸術的に打上げる、ということについてはまさにその通りのように思います。

実は年末、ロンドンのカウントダウン花火を観てきました。
もちろん、観覧車から花火を打つという日本ではまだ実現していないことをバシバシやっていることは大きな違いのひとつではありますが、もうひとつ、日本の花火演出とは大きく違うと感じた点がありました。

それは、一斉打ちが基本となっている点です。

日本の花火演出では、「段打ち」という順番に打上げる方式が良く使われます。
日本の花火は一発一発が美しく、それそのものを時間をかけて鑑賞するという花火大会文化があります。

また、段打ちは星であれ曲導であれ、玉数を抑えながら夜空で火薬が燃焼していない時間を減らすことが出来る方法でもあります。こうすることで、「何かが燃えて光っている」状態を長引かせること出来るため、玉を節約することもできます。逆に言えば、一玉打上げるだけでも十分に鑑賞に堪え得る日本の花火を使うからこそ、映える演出でもあります。

さて、海外の花火演出ですが、僕にはリズムがとても良いように感じられます。これは、ロンドンに限ったことではなく、YOU TUBE等で観る海外の花火演出に以前から感じていたことでした。
このリズム感の良さの正体が一斉打ちではないかと思うのです。

基本的に、一斉打ちは、段打ちよりも花火玉を多く消費します。空に何も光っていない状態をつくらなくするためには、とにかく一斉打ちを繰り返さなければなりません。もちろん、何も光っていない間を上手く使ったり、打上げ玉以外の花火を使用して、より良い演出を狙ったりもしますが、とにかく使用する玉数が多くなります。
また、上空で開いた花火と花火が重なってしまうため、一玉の美しさを鑑賞するのには向きません。

この一斉打ちの使い方が、海外の花火演出家は非常に上手いように思います。

日本の花火は丁寧につくられている分、やはり海外製品に比べて高額になってしまいます。この辺りのコスト感覚も、花火一玉をどう扱うかという演出の違いに表れているように感じます。

さらには、花火の鑑賞の方法の違いも影響しているように思います。

実は、日本の「花火大会」というものは、花火の鑑賞方法として、世界ではかなり特殊な部類に入ります。
そもそも、海外には花火大会はありません。ここで言う花火大会とは、90分、120分かけてビールを飲みながら親しい人とゆっくり時間を過ごす、という花火の鑑賞方法です。
これが海外では、10~20分程度で花火を打ちまくる、日本の感覚でいう「花火ショー」が主流です。ただ、この20分の花火ショーでは、日本で120分かけて打上げられる花火と同じ量の花火が消費されたりしますので、密度は日本の花火大会よりも濃い場合が多いです。

それぞれ、文化的背景も影響しての現在の花火演出の形があるわけですが、プロとしては良いものは積極的に取り入れていかなければなりません。
あの一斉打ちの連続、僕にはとてもカッコ良く見えるので、今夏どこかで上手く使えないかと模索中です。

そういえば、日本の花火演出でも「いいなぁ」と感じるものは、一斉打ちが多いように思います。
分かったようなことを語りましたが、もしかすると個人的に好みなだけかもしれません…。

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